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大阪地方裁判所 昭和62年(ワ)9130号 判決 1990年2月22日

原告

河野政吉

ほか三名

被告

大原展治こと金光弘

主文

一  被告は、原告河野政吉に対し金二六六二万一三七一円、同河野正光、同豊田美代子、同阪口和子に対しそれぞれ金二九八万五七〇七円並びに右各金員に対する昭和六〇年三月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その二を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告河野政吉に対し金四四三三万一八二八円、同河野正光、同豊田美代子及び同阪口和子に対し、各金四九二万五七五八円並びに右各金員に対する昭和六〇年三月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和六〇年三月一日午前〇時二五分ころ

(二) 場所 大阪府和泉市伯太町八二四番地先路上(以下、「本件事故現場」という。)

(三) 加害車両 普通乗用自動車(和泉四〇け九一九一号)

右運転者 訴外鮫島公活(以下、「訴外鮫島」という。)

(四) 被害者 訴外河野義治(以下、「訴外義治」という。)

(五) 態様 本件事故現場の道路(以下、「本件道路」という。)を西から東へ進行していた加害車両が、歩行中の訴外義治に衝突した(以下、「本件事故」という。)。

(六) 結果 訴外義治は、頭蓋骨骨折、頭蓋底骨折、脳挫傷及び脳幹挫傷により、昭和六〇年三月二日午前〇時三〇分ころ死亡した。

2  責任

(一) 被告は、加害車両を所有し、これを自己のために運行の用に供していたから、自動車損害賠償保障法(以下、「自賠法」という。)三条に基づき、本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。

(二) 被告は、訴外鮫島の雇用主であり、本件事故当時、同人を自らの業務の執行にあたらせていたものであるから、民法七一五条に基づき、本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。

3  損害

(一) 訴外義治の損害

(1) 治療費 一〇万〇二五〇円

(2) 逸失利益 五五八一万二〇〇四円

訴外義治は、本件事故当時、三三歳の男性で、電気工事業を営んでいたものであるから、本件事故に遭わなければ、就労可能な六七歳まで三四年間稼働することができ、その間毎年少なくとも四〇七万七五〇〇円(昭和六一年賃金センサス第一巻第一表産業計、企業規模計、学歴計の三〇ないし三四歳の男子労働者の平均年収額)の収入を得ることができるはずであつた。訴外義治は、本件事故当時、実父の原告河野政吉(以下、「原告政吉」という。)及び実母の訴外河野ハル子(以下、「訴外ハル子」という。)を扶養していたものであるから、右収入から生活費として三〇パーセントを控除したうえ、ホフマン式計算方法により、年五分の割合による中間利息を控除して、同人の逸失利益の現価を計算すると、次のとおり五五八一万二〇〇四円となる。

(算式)

4,077,500円×0.7×19.554=55,812,004円

(3) 慰謝料 一八〇〇万円

訴外義治が本件事故死によつて受けた精神的苦痛に対する慰謝料は一八〇〇万円が相当である。

(二) 権利の承継

前記のとおり、原告政吉は訴外義治の実父であり、訴外ハル子は訴外義治の実母であるところ、右両名は、訴外義治の死亡に伴い、同人の被告に対する損害賠償請求権を相続により各二分の一ずつ承継した。

(三) 原告政吉及び訴外ハル子の損害

(1) 葬儀費用 八〇万円

原告政吉及び訴外ハル子は、訴外義治の葬儀を執り行い、その費用として八〇万円を支出し、これを各二分の一ずつ負担した。

(2) 弁護士費用(原告政吉負担分)

(四) 権利の承継 三三七万五〇〇〇円

訴外ハル子は、平成元年九月一日死亡したものであり、原告政吉は訴外ハル子の夫、同河野正光(以下、「原告正光」という。)、同豊田美代子(以下、「原告美代子」という。)及び同阪口和子(以下、「原告和子」という。)は訴外ハル子の子であるところ、訴外ハル子の死亡に伴い、同女が相続により承継した被告に対する前記二の損害賠償請求権及び同女の被告に対する前記三(1)の損害賠償請求権を、相続により原告政吉については二分の一、同正光、同美代子及び同和子については各六分の一ずつ承継した。

(五) 原告正光、同美代子及び同和子の損害

(1) 弁護士費用 各三七万五〇〇〇円

3  損害の填補

原告らは、自動車損害賠償責任保険(以下、「自賠責保険」という。)から、二〇一〇万三一五〇円の支払いを受けたので、訴外義治の治療費及び逸失利益に充当した。

よつて、被告に対し、本件事故による損害賠償として、原告政吉は四四三三万一八二八円、同正光、同美代子及び同和子はそれぞれ四九二万五七五八円並びに右各金員に対する本件事故の日の後である昭和六〇年三月二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。

2  同2について

(一) (一)のうち、被告が加害車両を所有していたことは認めるが、その余は否認する。

被告は、実弟である訴外大原忠治(以下、「訴外忠治」という。)が代表者をしている大一資源の部長職を努める者であり、本件事故当時、加害車両は大一資源に無償で貸与され、大一資源の古紙回収の業務に使用されていたものであり、しかも、本件事故は訴外忠治が雇用していた訴外鮫島が加害車両を運転して帰宅する途中に起つたものであるから、被告は本件事故同時、加害車両の運行について支配も利益も有しておらず、運行供用者の地位になかつたものである。

(二) (二)は否認する。

訴外鮫島を雇用していたのは、訴外忠治である。

3  同3は不知。

4  同4は認める。

三  抗弁(過失相殺)

訴外義治は、本件事故当時、酒に酔い、訴外柴立鉄二(以下、「訴外柴立」という。)と肩を組んだ状態で、本件事故現場の道路の北側から南東方向に向つてふらふらと斜めに横断をしていたものであり、このことは、本件事故当時訴外義治が着用していたズボンの右側前方にある上部ポケツト付近に加害車両との衝突の際に生じた擦過痕が、同じくスリツパの先端部に加害車両の青色塗料がそれぞれ付着し、加害車両が訴外義治の後方からではなく、斜め前方から衝突したことを示していることからも明らかである。しかも、訴外義治らが横断しようとしていた場所は、横断歩道の一七ないし一八メートル手前の地点であつて、横断歩道の近くであり、本件事故現場は幹線道路ともいうべき交通量の多い道路であつて、事故発生時が午前〇時二五分ころという深夜であることに鑑みると、同人の過失は五五パーセントを下ることはないというべきである。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は否認する。

訴外義治は、帰宅途中に本件事故に遭つたものであり、同人の自宅は本件事故現場の北の方角にあり、本件道路を西から東に行き、国道一三号線と交差する幸町交差点で同国道を北上する経路でタクシーに乗車して帰宅する予定で、本件道路北側を東進していたのであるから、訴外義治が本件道路を南に横断しようとするようなことはあり得ない。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1(事故の発生)は当事者間に争いがない。

二  被告の運行供用者責任

同2(一)のうち、被告が本件事故当時加害車両を所有していたことは当事者間に争いがないところ、被告は、本件事故当時、加害車両を訴外忠治に貸与し、同人がその営業のために使用していたから、運行支配も運行利益も有しておらず、運行供用者の地位になかつた旨主張するので、以下この点について判断するのに、成立に争いのない乙第三、第七号証及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実を認めることができ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

1  訴外忠治は大一資源の屋号で営まれている製紙原料問屋の代表者であるところ、被告は訴外忠治の実兄で、本件事故当時大一資源の業務に従事し、部長の役職を務めていた。

2  被告は、その所有する加害車両を大一資源に提供し(無償貸与)、大一資源は、これを古紙回収業務のために使用し、その運転席上部アングル前面の鉄板及び荷台の両側面にそれぞれ大一資源の標章を記入し、キヤビン部の両側面には大一資源本社の電話番号を記載して、大一資源の業務に使用される車であることを表示していたが、加害車両の自賠責保険契約は被告名義で締結されていた。

3  訴外鮫島は、大一資源の従業員で、加害車両を大一資源の古紙回収業務のために使用していたが、本件事故当時は加害車両を運転して帰宅する途中であつた。

以上の事実によれば、被告所有の加害車両が大一資源に提供(無償貸与)され、大一資源の業務のために使用されていたとしても、被告は、大一資源の代表者である訴外忠治の実兄で、大一資源の業務に従事し、部長の役職を務めていただけでなく、大一資源の業務に使用するために加害車両を無償で提供していたのであるから、単なる被雇用者ではなく、大一資源の経営にも参加していたものと考えられ、しかも大一資源の使用権原は使用貸借にすぎず、自賠責保険契約は被告名義で締結されていたのであるから、被告は、なお加害車両の運行を事実上支配、管理することができ、社会通念上自動車の運行が社会に害悪をもたらさないよう監視・監督すべき立場にあつたということができ、加害車両を自己のために運行の用に供する者に該当していたものというべきである。

従つて、被告は、自賠法三条により、本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。

三  損害額

1  訴外義治の損害

(一)  治療費 一〇万〇二五〇円

成立に争いのない甲第三、第四号証及び弁論の全趣旨によれば、訴外義治は、本件事故により前記のとおり受傷し、死亡するまでの間、馬場病院で治療を受けたが、その費用として一〇万〇二五〇円を要したことが認められる。

(二)  逸失利益 五四七七万五二七七円

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第五号証、成立に争いのない甲第七号証の一、二及び第八号証並びに弁論の全趣旨によれば、訴外義治は昭和二六年一一月一四日生まれの男性で、昭和五九年一二月二八日まで大洋電設株式会社に勤務し、昭和五九年には一年間に三九五万〇一四八円の給与の支給を受けていたが、同社の下請けとして独立するため同日付けで退職して、昭和六〇年一月一日から同社の下請けとして電気工事業を自営し、右営業により同月中に四七万〇八六五円、同年二月中に一四五万〇九七六円の売上げをあげて順調に売上げを拡大していたこと、本件事故当時は、同人の収入で実父である原告政吉及び実母である訴外ハル子を扶養していたことが認められる。

右事実によれば、訴外義治は、本件事故に遭わなければ、少なくとも三三歳から六七歳まで三四年間稼働し、その間平均して毎年四〇〇万一八〇〇円(昭和六〇年賃金センサス第一巻第一表産業計、企業規模計、学歴計の三〇ないし三四歳の男子労働者の平均年収額)を下らない収入を得ることができ、また、前認定のとおり、同人が両親を扶養していたことを考慮すると、その間の同人の生活費は平均して右収入の三〇パーセントと認めるのが相当である。そこで、右収入額を基礎に、右生活費相当額及びホフマン式計算方法により年五分の割合による中間利息を控除して、同人の逸失利益の現価を計算すると、次のとおり五四七七万五二七七円(円未満切捨て、以下同じ。)となる。

(算式)

4,001,800円×0.7×19.5538=54,775,277円

(三) 慰謝料 一五〇〇万円

本件事故死によつて訴外義治が受けた精神的、肉体的苦痛に対する慰謝料としては一五〇〇万円が相当である。

2 権利の承継

前掲甲第七号証の一、二及び弁論の全趣旨によれば、請求原因3(二)(訴外義治を被相続人とする原告政吉及び訴外ハル子の相続)を認めることができる。

3  原告政吉及び訴外ハル子の損害(葬儀費用)

弁論の全趣旨によれば、原告政吉及び訴外ハル子は、訴外義治の葬儀を執り行つて相応の費用を支出し、これを各二分の一ずつ負担したことが認められる。

右事実によれば、右支出額中の七〇万円を本件事故と相当因果関係に立つ損害と認めるのが相当であり、これを原告政吉及び訴外ハル子に二分の一ずつ分配すると、それぞれにつき三五万円となる。

4  権利の承継

弁論の全趣旨によれば、請求原因3(四)(訴外ハル子を被相続人とする原告らの相続)を認めることができる。

四  過失相殺

成立に争いのない乙第一、第二号証、第四、第五号証、前掲乙第三号証及び証人柴立鉄二の証言を総合すれば、以下の事実を認めることができ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

1  本件事故現場は、大阪府和泉市内を同市幸町から同市富秋町方向に東西に通ずる片側一車線の道路(以下、「本件道路」という。)上であり、東行車線及び西行車線の各幅員はいずれも三・六メートルで、東行車線の北側には幅二・四メートル、西行車線の南側には幅一・九メートルの歩道がそれぞれ設置され、道路北側には北側の歩道に面して間口一〇・八メートルの西岡新聞店の店舗があつて、右店舗の西側には本件道路とT字型に交差して北に延びる幅員四メートルの道路(以下、「北行道路」という。)があり、北行道路の一〇・七メートル東寄りには本件道路とT字型に交差して南に延びる幅員六メートルの道路(以下「南行道路」という。)がある。

また、西岡新聞店の西側の道路の東方約二八・四メートルの地点には本件道路を横断するための幅四メートルの横断歩道があり、現場付近には、街灯や店舗の照明等で夜間でもやや明るい状態であり、本件事故当時、本件道路の車両の交通量は少なく、事故の約一時間二五分後の昭和六〇年三月一日午前一時五〇分から開始された警察の実況見分における調査では、通過車両は五分間に一〇台程度であつた。

2  訴外義治は、本件事故の前日の午後七時ころから訴外柴立の自宅で同人と焼酎を飲み、更に午後一〇時ころ両名で本件事故現場近くのスナツクに出掛け、同スナツクでウイスキーの水割りを飲んだのち、両名で同スナツクを出て帰宅の途中、本件事故に遭つたものであるところ、本件事故当時、訴外義治及び同柴立は東行車線の北側の歩道を、訴外柴立が北側、訴外義治が南側に並び両名が肩を組んだ状態で東に歩行していたが、北行道路に達した辺りから東行車線内に進入し、訴外柴立が東行車線の歩車道の境界から四〇ないし五〇センチメートル車道内に入つた辺りを、訴外義治がその南側の車道中央線寄りを東に向かつて歩いていたところを、後方から東行車線を進行して来た加害車両に両名同時に衝突され、訴外柴立は北行道路の東方約九・八メートルで東行車線内に約〇・四五メートル入つた地点に転倒し、訴外義治は、訴外柴立の約一・五メートル東側の東行車線上に転倒した。なお、訴外柴立は、衝突時まで後方から東進してきた加害車両に気付いていなかつた。

3  本件事故当時、訴外義治は上下ともカーキ色の作業着を着用し、スリツパを履いていたものであり、事故後、上衣の左袖口釦に青色塗料様のものが擦過状に付着し、ズボンの右前部の上部にあるポケツトが横に約五センチメートル引き裂かれ、右前部の下部にあるポケツトに擦過痕が、さらに右スリツパの先端部に青色塗料様のものが付着していた。

4  加害車両のキヤブオーバー型普通貨物自動車で、事故後、車両前面の左端より五センチメートルから四〇センチメートル、地上より七五センチメートルから一一二センチメートルの範囲に凹損があり、車両左端より一三センチメートル、地上より九二センチメートルの位置に微量の繊維が付着しており、車両左端より七センチメートル、地上より七八センチメートルの位置に布目様の痕跡があつた。

5  訴外西田力は、本件事故直前に自転車に乗り、南行道路付近から北行道路方向に向かつて北西方向に本件道路を斜め横断したのち、本件道路の東行車線の北端を西進している間に、歩行中の訴外義治及び同柴立並びに加害車両とすれ違つたものであるところ、右横断中に北行き道路の西端付近を東に歩行してくる訴外義治及び同柴立を認めているが、その際には訴外柴立は東行車線の北側の歩道の南端付近を、訴外義治は同車線の車道の北側付近をそれぞれ歩いていた。なお、同人は、北行道路の西方約一四メートルの地点で加害車両とすれ違つているが、その際には、加害車両は東行車線の中央付近を走行していた。

以上認定の事実によれば、本件事故現場は歩車道の区別のある道路であり、歩行者は歩道を通行することが義務付けられているにもかかわらず、訴外義治は、事故当時、相当程度酒に酔つていたうえに交通量が少なかつたこともあつて訴外柴立と肩を組み、同人と並んだ状態で東行車線の北側から一メートル以上車道内に入つた所を歩行していた過失があり、訴外義治の右過失も本件事故の原因となつているものというべきである。

そこで、訴外義治の右過失を斟酌し、前認定の損害額から二五パーセントを減じた額をもつて、被告の賠償すべき額とするのが相当である。

なお、被告は訴外義治及び同柴立は、西岡新聞店前付近から本件道路を南東にふらふらと横断していたものであり、訴外義治が着用していたズボンの右側前方にある上部ポケツト付近に加害車両との衝突の際に生じた擦過痕が、同じくスリツパの先端部に加害車両の青色塗料がそれぞれ付着していたことは、加害車両が後方からではなく、訴外義治の斜め前方から衝突したことを示すものであると主張し、訴外西田力からの目撃状況の聴取書であるとする乙第六号証中にはこれに副う記述部分があるが、右記述部分は「車道を横断していたような感じであつた」という程度で具体性がないうえ、本件事故は、自転車に乗つて東行車線を西進中の同人が訴外義治ら及び加害車両とすれ違つたのちに、同人の背後で発生したものであるから、右記述をにわかに採用することはできない。また、訴外義治の着衣等の痕跡についても、前認定の同人のズボン前面の痕跡は前方からの衝突をうかがわせるものであるといえなくもないが、スリツパ先端部の青色塗料様のものについては、前掲乙第三号証によれば、加害車の青色(スカイブルー)に塗装された部分は少なくとも地上高三〇センチメートル程度以上の部分であると認められるから、前方から衝突したというだけでは、地面に接し、または近接していたはずのスリツパ先端部に何故加害車の塗料が付着したかを説明することはできず、かえつて、右事実は、訴外義治の身体が加害車両との衝突により単純に跳ねとばされたのではなく、複雑な動きをした可能性のあるととをうかがわせるものであり、右痕跡から直ちに訴外義治らが本件道路を横断中であつたと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠もない。

五  損益相殺

請求原因4は当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、右争いのない填補額を原告政吉が四分の三、原告正光、同美代子及び同和子が各一二分の一の割合で配分したものと認められるので、原告らの前記過失相殺後の各損害額(原告政吉については三九六九万八七三三円、同正光、同美代子及び同和子については各四四一万〇九六九円)から右填補額(原告政吉については一五〇七万七三六二円、同正光、同美代子及び同和子については各一六七万五二六二円)をそれぞれ控除すると、原告らが賠償を求め得る損害額の残額は原告政吉については二四六二万一三七一円、同正光、同美代子及び同和子については各二七三万五七〇七円となる。

六  弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、原告らは原告ら訴訟代理人に本件訴訟の提起及び追行を委任し、相当額の費用及び報酬を支払い、又は支払いの約束をしているものと認められるところ、本件事案の内容、審理経過、結果等に照らすと、本件事故と相当因果関係に立つ損害として賠償を求めうる弁護士費用は、原告政吉について二〇〇万円、同正光、同美代子及び同和子について各二五万円と認めるのが相当である。

七  結論

以上の次第で、原告らの本訴請求は、被告に対して、原告政吉は二六六二万一三七一円、同正光、同美代子及び同和子は各二九八万五七〇七円並びに右各金員に対する本件事故の日の後である昭和六〇年三月二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める程度で理由があるから、これを認容し、その余は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条及び九三条一項を、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 笠井昇 二本松利忠 永谷典雄)

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